では,ウジはどうやって細菌におかされた傷を癒すのだろうか。外科医が傷口を消毒しようとするときにやることを,もっと手際よく,手数をかけずにやるだけのことだ。Debridementをウェブスターの辞書(Webster’s New College Dictionary)で引いてみると「傷つき,挫折し,あるいは感染した組織を外科的に取り除くこと」とある。外科医が死んだ組織をメスで切り離そうとすると,一緒に生きている組織まで損なってしまうのは避けられない。ところがウジは死んだ組織を文字通り細胞単位で取り除き,そのうえ好みがまことにうるさいので,死んだ細胞しか食べようとしない——生きている細胞には見向きもしないのだ。ウジは,最大限まで成長すると傷口を離れるので,傷を覆っている包材から取り除かれる。自然界では,動物の死骸や生きた動物の化膿創にとりついてせっせと腹を満たしていたウジはその段階になると——ほとんどすべての蝿の幼虫の例に漏れず——その場を離れて地面に落ち,浅い穴を掘って蛹になる。
ギルバート・ワルドバウアー 屋代通子(訳) (2012). 虫と文明:蛍のドレス・王様のハチミツ酒・カイガラムシのレコード 築地書館 pp.215
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