演技するノミの歴史は古い。コーワンは1745年にロンドンでビングリー氏なる人物によって書かれた文章を紹介している。「ストランド街の発想豊かな時計師が陳列したるは……装飾をすべて備え,御者台に人形を座らせ,これすべてを一匹のノミだけで引いている象牙の四輪馬車」。1830年のイングランドはケント州の縁日で,三匹で軽々と荷車を引くノミ,二匹で荷馬車を引くノミ,真鍮の大砲を引っ張るノミを見世物にしていた男性がいたという。「興行師はまず見世物すべてを拡大鏡で見せ,その後肉眼で見せた。そうすると見物客もみんな,だまされていないと納得したものだ」とコーワンは記している。
1877年,W.H.ドールはニューヨーク東16丁目付近のブロードウェイの門口に,「訓練を積んだノミの見世物」という表示が出ているのに目を留めた。ドールは少年時代,訓練を積んだというノミの驚くべき演技に,「不信の念の混じった特別な関心」を寄せたことを思い出した。そこで彼は中に入って見世物を見物した。ノミの演技をつぶさに観察したドールは,ノミはいかなる意味でも訓練されているわけではなく,演技はすべて,虫がなんとかして逃れようと試みている結果であると結論づけた。
ギルバート・ワルドバウアー 屋代通子(訳) (2012). 虫と文明:蛍のドレス・王様のハチミツ酒・カイガラムシのレコード 築地書館 pp.246
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