他方,進化についてこうした説明をすると,今度は,それを「弱肉強食」「優勝劣敗」の競争と結びつけて,弱い者や劣った者が淘汰されて,強い者,優れた者が残っていくのが進化だと考える人がいる。そういう人は,自然の世界はこうした競争によって強者が残って進化・発展するようになっている,だからそれは「善いこと」なのだと主張して,自由競争に賛成しそれを促進しようとするのが「進化倫理」だと思うかもしれない。実際,悪名高い社会進化論はそういう主張をした。しかし,ここにも誤解が蟻,進化は別に「弱肉強食」でも「優勝劣敗」でもないし,進化倫理学は,競争を擁護する思想とは違う。社会進化論というのは,単なる競争主義の価値観を,進化に関する誤った知識に当てはめて提示したもので,人間行動進化学や本書で論じる進化倫理学とは別物である。
内藤 淳 (2009). 進化倫理学入門:「利己的」なのが結局,正しい 光文社 pp.28-29
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