以上はいずれも,誰かとの間でポジティブに「利益」交換関係を築くための感情だが,その裏返しとして,こちらが「恩」をかけたのに「お返し」をしてこない相手や,こちらに害をもたらした相手に対しては,関わりを断ち切る,あるいは反撃や報復をして相応の不利益を「お返し」しようとする感情も人間にはある。それが「憎しみ」や「復讐心(報復心)」で,そういう相手と関係を持つのは「損」なので,はっきり関係を断ってこちらに寄ってこないようにするのが得策である。何かの拍子に一,二度親切な振る舞いを受けることがあっても,過去に大きな害を受けた相手であればそれでは割に合わないし,いつまたこちらに不利益なことをしてくるか分からない。そこで,そうした相手をはっきりマーキングし,攻撃的な態度をとって今後自分に寄ってこないようにする。場合によってはこちらからも相手に不利益を与えて「自分の利益」を守る。そのための感情が「憎しみ」や「復讐心」である。
内藤 淳 (2009). 進化倫理学入門:「利己的」なのが結局,正しい 光文社 pp.93-94
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