ですから,このお話で活躍致しますお化けども,これは概念でございます。
お化けと申しますものは——幽霊なんかも含みますけれども——これ,大雑把に述べますてえと,文化的存在と申すことが出来ましょうな。
世の中には理解の及ばぬ現象やら,子細あって曲解したい事象やら,都合の悪い出来ごとなんぞが沢山ございます。人と申しますものは,そうしたものごとを誤魔化すように出来ております。まあ,無理な解釈を致しましたり,妙な説明を致しましたり,怖がりたくないから何かの所為にしてしまったりする訳ですな。そういう色々な人の思いが捏ね上げました妄念やら小理屈なんかが,お化けそもそもでございます。その辺から生まれまして,長い年月をかけまして醸造されました様々なモノが,妖怪と呼ばれる訳でございますな。
ですから,まあいないという形でいる訳でございまして——その辺が,喩えなのでございますな。
京極夏彦 (2013). 文庫版 豆腐小僧双六道中おやすみ 角川書店 pp.10
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