データやら情報やらを壊さずに「本当の」サイズよりも小さくし,あとですべての情報を完全に作り直すなどということが,どうすればできるのだろうか。実は,人間は,そうと考えもせずに始終これを行っている。例として週間のカレンダーについて考えてみよう。話を簡単にするために,あなたの仕事は1日8時間,週に5日で,カレンダーは1時間ごとに区切られているものとする。つまり,5日間でそれぞれ8時間分の枠があり,1週間あたり40時間分の枠があるということになる。そこで,あなたは自分の1週間分のカレンダーを誰か他人に知らせるときに,40個分の情報を伝えなければならない。しかし,誰かが翌週の会議の時間を押さえるために電話をかけてきたとき,40個の情報をずらずらと並べて出席できる時間を説明するだろうか。もちろん,そんなことはしないだろう。「月曜と火曜はいっぱいで,木曜と金曜は午後1時から3時がふさがっているけど,あとは大丈夫だよ」のように言うはずだ。これは,ロスなし圧縮の実例である。あなたの話を聞いた相手は,週の40時間の枠のうち,あなたが会議に出席できる時間を完全に再現できる。しかし,あなたは40個の枠全部についていちいち説明するわけではないのだ。
ジョン・マコーミック 長尾高弘(訳) (2012). 世界でもっとも強力な9のアルゴリズム 日経BP社 pp.162-163
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