実は,多くの書籍が赤字だという。多くというのは,半分よりもずっと多い,大多数という意味だ。それなのに出版社は成り立っている(最近の出版不況で潰れるところも多いが)。これは,一部の売れる本が黒字を出しているからにほかならない。部数が多くなるほど,利益率は高くなる。僕の担当編集者の一人は,「増刷というのは,お札を刷っているみたいなものです」と話していた(1万部,2万部単位での大量増刷になると,まさしく1000円の本なら500円札を刷っているのと同じことになる)。増刷になるのは,初刷がすべて売れたか,売れる見込みがある本だ。すなわち,編集も終わっていて,印刷の版下(写真のネガみたいなもの)もあるので,安く作ることができる。出版社にしてみれば,労力がかからない,まるでお札を刷っているみたいな感覚になるのも頷ける。
作家としては,増刷は不労所得だと書いたが,それ以上に,「出版社に損をさせなかった」とほっとするのが増刷,ともいえる。
森博嗣 (2015). 作家の収支 幻冬舎 pp.51-52
PR