ステレオタイプ化の広がりに対する現代のおもな説明は,「不幸な副産物」タイプというもので,カテゴリーを用いて世界を認識するという非常に有用な人間の能力の不幸な副産物なのだという理解である。社会心理学者の多くは,この説明をもっともらしいものと考え,私たちもそう思う。
「現在適応的だ」と考えるタイプの説明もある。この理論では,ステレオタイプ的に他集団(外集団)を見ることによって,自分の所属する集団をそれよりも優れているとみなすことで,自尊心を効果的に上昇させることができるのだと考える。多くの他集団に対して好ましくないステレオタイプをもっていることによって,こうした自尊心高揚はかなり行いやすくなる。しかし,この理論は次の点でそれほど説得的ではない。1つには,自尊心を上げるなら人は他のさまざまな方法をすでにもっているからであり,もう1つは,それはとても真とは言えそうにない予測に結びつくはずだからだ。つまり,ステレオタイプを利用して比べるなら,社会のなかで高地位を占める人たちやデフォルトの特徴を有する人たちにおいて,階層が下の人たちよりもステレオタイプ化をよく行うはずだという予測になる。
私たちは,「現在適応的である」タイプのステレオタイプ化の利点についての新たな理論を提示する。「ステレオタイプ化は初対面の人たちを異なった個々人としてすばやく認識する助けを提供する効果をもつ」というものだ。
M.R.バナージ・A.G.グリーンワルド 北村英哉・小林知博(訳) (2015). 心の中のブラインド・スポット:善良な人々に潜む非意識のバイアス 北大路書房 pp.149-150
(Banaji, M. R., & Greenwald, A. G. (2013). Blindspot: Hidden biases of good people. )
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