生物の生活史の研究を導く理論体系を生活史理論という。
この理論体系はもちろん生物の種類毎による生活史の違いを説明しようとする。生物は,何年ほど成長に費やしてから,いつ,何回,一度にどれだけの,どのくらいの大きさの子をつくるべきなのであろうか。このような設問に答えることこそが生物学における生活史理論の使命なのだ。
生活史理論の要の課題の一つは,寿命の長い,子の少ない生活史,すなわち,サルの生涯のような生活史を説明することにある。この課題を一般的な哺乳類とサルを対比させて説明してみよう。
イヌはだいたい二歳ぐらいで成熟し,繁殖できるようになる。しかも,イヌの母親は複数の子供を一度に産むことができる。ところが,ニホンザルを例にとると,若いサル達はおおむね五歳ぐらいで成熟し子供を作ることができるようになる。多少の変異が生活史(すなわち個体)の間にあるが,いくつものニホンザルの生活史を観察して最初に繁殖する年齢の平均を計算してみると,その平均は一歳でも十歳でもなく,五歳ぐらいに収斂されている。そして,ニホンザルに限らず,数種の例外を除いて,サルの母親は一度に一頭の子供しか産まない。サルの成長はイヌより二倍の時間がかかっているうえに,子供の数が少ないことに特徴がある。
D・スプレイグ (2004). サルの生涯,ヒトの生涯:人生計画の生物学 京都大学学術出版会 pp.9-10
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