さらには,生活史の進化を説明する理論には,たとえばあなたのこの一年の人生計画にはない難しさがある。あなたは一生をヒトとして生活してゆくのであり,そのヒトとしての基本的な生活史は変わりえない。個人的に長生きする努力は可能だが,基本的な成長や老化の順番や時期はさほど変わりようもない。たとえ現代社会の賜物として寿命が伸びたり,子供の成長が速くなったとは言え,長い進化の途上に人類が経験してきた生活史の変化にくらべれば微々たるものである。人間の基本的な寿命は今の私達の努力ではいくら長生きでも100歳をこえる人はかなり稀であるとともに,20歳ではなかなか老人にはなれない。だからあなたも20歳で老人になる人生計画を立てる必要はないであろう。子供が5歳で赤ちゃんを産む心配も無用である。人間の生活史はだいたい決まっている前提で,あなたは人生計画を立てればよい。しかし,進化する生物は生活史そのものがどんどん変化しうる。寿命も子が生まれる年齢も成長のタイミングも,すべてが劇的に変わりうる。
D・スプレイグ (2004). サルの生涯,ヒトの生涯:人生計画の生物学 京都大学学術出版会 pp.44
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