学習と知能は何のためなのか。予測しにくい環境の変動に適応したり,複雑な社会行動を発揮する術を各個体に持たせることは言うまでもなく生存にかかわる重要な能力ばかりであろう。ただし,大きい脳はいいことずくめではない。
脳は成長と維持に非常に時間とエネルギーを必要とする。いわば,きわめて高価で贅沢な臓器である。よって,脳は哺乳動物にとって生存に不可欠な大事な臓器であると同時に,生活に多大な負担をかける臓器でもある。脳はそれ自体が栄養を摂取したり,酸素を取り入れたり,病気と戦うなど,生命を維持するために必要な根本的な生理機能を果たす臓器ではない。よっぽど役に立っていないかぎり,動物にとっては文字どおりに頭の重い問題になりかねない。実際に小さい脳で十分に生き延びる生物は多く存在する。
D・スプレイグ (2004). サルの生涯,ヒトの生涯:人生計画の生物学 京都大学学術出版会 pp.77-78
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