少年期が進化した理由は二つ提案されている。一つは「学習期間説」と名づけよう。この説は,哺乳動物は生存のために学習と知能に頼る部分が大きいという点に注目する。学習と知能は何のためなのか。食べ物を探す,食べ物を習得する,環境変動に適応するなどのため。あるいは社会行動と採食が複雑であり,また予測しにくい環境変動に各個体が適応するため。
少年期の学習期間説は,社会性がどれほど哺乳動物の学習や知能への依存に拍車をかけたかを強調する。たとえば,社会行動それ自体が複雑であり,若い個体が集団生活の作法を習うのには時間がかかる。採食行動は集団で採食する種は仲間同士で食べ物のありかを伝えたり,教わったりする。繁殖行動も社会行動がともなう。上手に繁殖するためにも少年期に異性と付き合う術を学び,大人になる準備をしなければならない。
もう一つの説は「競争回避説」と言える。育ち盛りの子供は大人と直接争ったとしても負けてしまう経験豊かな大人と食べ物や繁殖相手の奪い合いには勝てるはずもなく,争っても怪我するだけである。よって,成長期間を延ばして,大人との競争を回避しながら,上手に大人になる,という説である。そして,霊長類を含めて,成長曲線の緩やかな成長の期間は少年期の存在によって説明されている。
D・スプレイグ (2004). サルの生涯,ヒトの生涯:人生計画の生物学 京都大学学術出版会 pp.109-110
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