子供をもう一人望む親は,家計簿を見ながら難しい決断を迫られるにちがいない。子の将来を想像しながら,せめて自分と同じ程度の生活水準を維持してほしい,と思うのが親心であろう。そのためには,どのような学校に通わせなければならないのか。子供達はみんな公立の学校でよい,と考えれば一人約1000万円プラスで教育できる。幼稚園から大学まで私立学校に子供を通わせるつもりでいる親は,約2400万円を準備しなければならない。しかし,もう一人の子をあきらめると,以上の金額は,その他の子育てコストとともに,まるまる家計簿に残る。すでに生まれてきている子に使うこともできれば,老後の蓄えの足しにもなる。年間の費用として教育費は住宅ローンをも上回る場合も多いなか,もう一人の子供をあきらめれば,同じ年収でマイホームを購入できる家庭もいるであろう。この計算を見て,読者の皆さんはどう判断しますか。
現代の人間は生物として一通りの欲求を満たせる,すばらしい生活を達成したかのように見える。人間は天敵をほぼ排除し,建築物や衣服によって身体を守り,食欲も性欲も社会欲も結構存分に満たせる社会を構築したように思える。しかし,ここに来て,H・キャプランが言う「身体化資本」を追求するあまりに,現代人の生活史が過去のそれと比較して根底から変わってしまっているような気がする。
D・スプレイグ (2004). サルの生涯,ヒトの生涯:人生計画の生物学 京都大学学術出版会 pp.181-182
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