職場には,おそらくほかのどんな場所よりも,わたしたちがデータの「奴隷」になり,自分の生み出した情報に縛られる危険がある。いまやキーボードで入力した内容は,すべて記録し,数学的に分析できる。もしも上司が望むなら,部下が書いた電子メールに出現する単語の統計も取れる。その結果を,頻度が高いほど大きな文字で表示することも可能だ。部下としては,自分が売っている薬とか,勧めている株の銘柄とかの名前よりも,「映画」や「ビール」のほうが大きく表示されないことを祈るしかない。ウォール・ストリート・ジャーナル紙をインターネットで読むことも,分析の対象になる。どの記事を読んだかは,雇用者に筒抜けだ。さらには,人々が交わす電子メールの宛先を集計し,人間関係を浮かびあがらせるソフトウェアも売られている。
このような道具を駆使すると,従業員の生産性,仕事への満足度,同僚との相性などについて,信頼度の高い結論を引き出せる。仲間との共同作業において,結局のところ,あなたがどう振る舞うかが見えてくる。マイクロソフトが2006年に特許出願した技術では,オフィスで働く人々の心拍数,血圧,皮膚の電気抵抗,顔の表情などを監視する。その目的は,労働者が感じる欲求不満やストレスの高まりを検知して,管理職に警告を出すことだ。
スティーヴン・ベイカー 伊藤文英(訳) (2015). NUMERATI ビッグデータの開拓者たち CCCメディアハウス pp.33
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