情報はわずかしかなく,お粗末なほど表面的だ。たとえば,あなたが会議室で5人の同僚とマーケティングの新戦略を練るとき,どんな思考が働くだろうか?それは現実世界での典型的な活動だ。人間の脳は,あきらかに宇宙で最も洗練されたコンピュータで,驚くほど多岐にわたるデータを処理する。鼻で笑われたり,無視されたり,それとなく皮肉をいわれたり,軽蔑のまなざしを向けられたりすることまで見落とさない。においと音を結びつけ,過去の記憶や教訓とも関連させる。ほかの5人の言葉と表情と身振りのすべてを合わせると,脳に集まってくる信号は何千,いや,何百万にもなる。ヴァージニア大学の心理学者ティモシー・ウィルソンの著作『自分を知り,自分を変える』によれば,脳には五感から毎秒1100万個の本質的に異なる信号が流れ込んでくる。
現在のコンピューターには,それほど大量の入力は処理できない。IBMが使う数学モデルは,従業員1人につき5個から10個のデータを取り込むだけだ。わたしの飼いイヌでさえ,人間の性質をもっと深く観察している。それでも,わたしたちがいったんデータとして表現されると,コンピューターは超人的な計算をはじめる。1秒とかからずに,何百万人,何億人ものデータを集計したり,そのなかから同じデータを探したりする。大規模で効率的な処理からは,新しい見識が期待できる。
スティーヴン・ベイカー 伊藤文英(訳) (2015). NUMERATI ビッグデータの開拓者たち CCCメディアハウス pp.41-42
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