つまるところ,いまのあなたが意識もしていないような買い物パターンを解き明かすのは,ウォルマートやグーグルの研究者でも,ガニが働くアクセンチュアの一員でもないかもしれない。その人物は,ひょっとしたら,いまはミミズとかナノメートルの精度の微細加工技術とかの研究をしていたり,選挙結果が浮動票に左右される州で民主党支持者の振る舞いを分析している可能性もある。
たとえば,マイクロソフトのデーヴィッド・ヘッカーマンは,受信される電子メールからスパムメールを除外するプログラムの開発に専念していた。無差別に送られてくる広告メールは,かなり堅牢になったセキュリティの隙を突くために,特徴的なパターンをどんどん変えていく。その様子は,自然界における生物の突然変異に似ている。このような変化を予想するのも,プログラムに求められる機能の一つだ。コンピューター科学者だが医者でもあるヘッカーマンは,メールの変異に追随する手法が確立されれば,医学にも応用できると考えていた。そこで,当然のように,2003年,興味をエイズの病原であるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に移した。「使っているプログラムはまったく同じです」。スパムメールの検出で実績を積んだプログラムから,いずれはエイズワクチンが生まれるかもしれない。
このように,<ニューメラティ>の世界では,大躍進のきっかけはどの領域でも起こりうる。
スティーヴン・ベイカー 伊藤文英(訳) (2015). NUMERATI ビッグデータの開拓者たち CCCメディアハウス pp.83-84
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