戦前から戦後の初めに移住してきた山の手第1世代のときは,ストックが生きた。100坪なら売れなくても,3分割なり4分割なりすれば買い手がついたからだ。
とはいえ,限度を超えて再分割されてしまうと,まちの環境が悪化する。そこで世田谷区が「小規模宅地開発指導要綱」を定め,ミニ開発の抑制を始めたのは1980年。戦後35年目のことであった。
1回目のサイクルはこれでなんとかしのぐことができた。しかし2回目のサイクルとなるとそうはいかない。土地は,もう切り刻みようがない。子どもが家を建て直して住んでくれれば丸く収まるが,マンションがいいとなればそれまでだ。住宅余りの時代だから,果たしてうまく買い手が現れるかどうかも不安が残る。
その結果どうなるか。まるで歯が抜けたように,無住の家をあちこちに生み出してしまう。更地にするには費用がかかるし,とりあえず家を建てたままにしておけば固定資産税が最大で6分の1に減免される。だが空き家の発生は,犯罪や火災の危険度を高め,まちの風紀を悪化させてしまう。
空き家問題は,団地問題の「まち版」である。この最悪のシナリオが23区の中で具体化するリスクが最も高い場所,それが定住先として屈指の人気を誇る山の手エリアにほかならないのだ。
池田利道 (2015). 23区格差 中央公論新社 pp.51-52
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