何年か前,ストックホルムを訪ねた際,何もすることがない晩があって(すでに午後8時を過ぎており,地元の人はみなずっと前に床に就いていた),寝る前の数時間,その地域の電話帳をめくり,そこに記された名前を拾い上げて過ごしたことがあった。以前,スウェーデンにはほんの一握りの姓しかないと聞いたことがあったが,大雑把に言えばその通りだった。数えたところ,エリクソン,ウヴェンソン,ニルソン,ラルッソンという姓をもつ人々はそれぞれ二千人以上もいた。それ以外はほとんどがヨハンソンやヨハンセンやそれに似た姓で占められていた。じっさい,名前の種類も非常に少なく(それとも,スウェーデン人が滑稽なほどぼんやりしているのか),姓と名に同じ名前を使っている人も多かった。ストックホルムにはエリク・エリクソンが212人,スヴェン・スヴェンソンが117人,ニルス・ニルソンが126人,ラルス・ラルッソンが259人いた。私はそのとき紙に書きとめたこれらの数字を,いつかどうにか使えないものかとずっと思ってきたのだった。
ビル・ブライソン 高橋佳奈子(訳) (2002). ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー 朝日新聞社 p.101
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