同じように統計的に筋が通らないのが銃の問題だ。アメリカ人の40パーセントが自宅に銃を保有しているという。たいていはベッド・サイドの引き出しに。その銃が犯罪者に向けて発砲される確率は,子供がいたずらでというのがほとんどだが,少なくともその20倍に達する。それでも,1億人以上の人々がそんな事実を断固として無視しているのである。そのことについてとやかく言い過ぎると,たまにその銃をこちらへ向けられる危険もあるほどだ。
しかし,人々の危険に対する非倫理性が何より明確にわかるのは,近年活発な議論を呼んでいる問題,間接喫煙である。4年前,環境保護局は35歳以上で煙草を吸わない人でも,常時他人の喫煙にさらされていれば,1年以内に肺癌にかかる可能性が3万分の1あるという報告書を発表した。それに対して人々は,まるで感電したかのように素早く反応した。全国的に,職場やレストラン,ショッピング・モール,その他の公共施設での喫煙が禁止されることになったのである。
ここで見落とされているのは,間接喫煙の危険性はじっさいにはきわめて小さいということだ。3万分の1の確率というのはかなり深刻に聞こえるが,じつはそれほどでもないのである。週に1度ポーク・チョップを食べ続ける方が,日々喫煙者に囲まれて過ごすよりも統計的にはよっぽど癌になる確率が高い。7日に1回人参を食べるとか,1ヵ月に2度オレンジ・ジュースを飲むとか,2年に1度レタスを丸ごと1個食べるというのもそうだ。間接喫煙よりも,ペットにインコを飼っている方が,肺癌にかかる確率は5倍も高い。
ビル・ブライソン 高橋佳奈子(訳) (2002). ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー 朝日新聞社 Pp.119-120
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