率直に言えば,日本という国の「段階」として,高度経済成長期に考えられた「今は苦しく不安定な生活だけど,未来はきっと安定的で豊かになる」という図式が,完全に崩れたのです。みなさんは生きていく中で,将来の不安定さを「当たり前」のこととして考えなければなりません。こうした中で日本の企業も余裕がなくなり,その継続性もわからなくなっています。しかし逆に考えてみれば,一生どこかの会社に勤めなければいけない決まりはありませんし,みなさんが何かの「価値」を作り出せれば,それは仕事になります。みなさんにとってはごはんを食べて暮らしていくための「手段」である仕事が,誰かに必要とされたり,誰かに必要とされることがみなさんにとってうれしかったりすると,お金を稼ぐ「手段」だった仕事そのものを楽しんで生きていけるかもしれません。日本人に職業選択の自由がほとんどなかった時代があったことを思えばとても贅沢なことです。
塩野 誠 (2013). 20代のための「キャリア」と「仕事」入門 講談社 pp.22-23
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