ロックの歴史のなかで見逃せないのは,1960年代半ば以降の「ブリティッシュ・インヴェイジョン British Invasion」と呼ばれる出来事である。「イギリスの侵略」という意味の通り,巨大な音楽市場であるアメリカにおいてイギリスのバンドの音楽が次々にヒットチャートを独占したのである。皮切りは1964年のビートルズだった。続いてローリング・ストーンズ,キンクス,アニマルズ,ザ・フーなどがヒット曲を送り込む。彼らイギリスのバンドの楽曲が,アメリカのヒットチャートを席捲した時,ロック・サウンドがポピュラー音楽の世界に確実に市民権を得た,と言えるのではないだろうか。
エレキギター,エレキベース,ドラムスの使用を不可欠の要素としたバンドスタイルで,バンドの主体性が尊重され,バンドメンバーがオリジナル曲を自作する。これがそれまでのいわゆるポップスとは違う,ロック音楽固有の性格となった。そして右に挙げたバンドにほぼ共通するが,ヴォーカルは黒人のソウルフルな歌いぶりに倣い,テンポの速い楽曲はどこか攻撃的な匂いをまき散らす。電気信号を通して増幅された楽器音は,当然大きな音量だ。こうしてロックは誕生したのである。
林 浩平 (2013). ブリティッシュ・ロック:思想・魂・哲学 講談社 pp.14-15
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