しかし,アメリカの無能さがどこか特殊なのは,以上に無駄を省こうとする姿勢のせいだ。とくに官僚組織において,目を丸くするような時短主義がはびこっている。国税庁の例を見てほしい。
毎年,税金のうち推定1千億ドルが,申告もされないままで終わってしまう。他国の中には,国内総生産の金額がそれ以下という国も少なくないはずだ。1995年,実験的な試みとして,連邦議会は国税庁に追加で1億ドルを投じ,そうした未納の税金を回収させようとした。それによって年度末までに回収できた金額は8億ドル。未納金の推定金額からするとごく一部にすぎないが,国にとっては,追加徴収にかかった経費1ドルにつき,8ドルの増収となったわけだ。
国税局が自信をもって予測したところによれば,その試みをさらに延長して行えば,翌年には未納税金のうち,少なくとも120億ドルを国が徴収できることになり,年を追うごとにその金額は増えて行くだろうということだった。しかし,連邦議会はそのプログラムを延長する代わりに,聞いて驚くなかれ,赤字削減プログラムの一端として中止してしまったのである。私が何を言いたいか,少しはおわかりいただけたのではないだろうか?
ビル・ブライソン 高橋佳奈子(訳) (2002). ドーナッツをくれる郵便局と消えゆくダイナー 朝日新聞社 Pp.133-134
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