ロックの巨大産業化と,それに伴うロックジャーナリズムの隆盛は,必然的にロックのジャンル分けという細分化をもたらした。とりわけ1980年代からオルタナティヴ・ロックすなわち「型にはまらない」という意味でのオルタナティヴなロックという言葉が登場してきて以来,ロックのサブジャンル化はさらに加速したようでもある。そもそもこのオルタナティヴ・ロック自体どんな音楽を指すのか不明確でもあったが,現在ロックファンの間でひとまずの共通理解とされているのは,1980年代の中心を占めるMTV的なヘヴィ・メタル系ではないロックのこと,というあたりだろうか。具体的には,ニルヴァーナに代表されるグランジ系のものと,レッド・ホット・チリ・ペッパーズに代表されるロックとヒップホップの融合したサウンドを指していよう。ともあれ1990年代以降,グランジやガレージ・ロック,パワー・ポップ,ブリット・ポップ,トリップ・ホップ,インダストリアル,ノイズなど様々なサブジャンルを表す言葉があたかも雨後のタケノコのように誕生し,いっぽうのヘヴィ・メタル系でも,スラッシュ・メタル,パワー・メタル,デス・メタル,ゴシック・メタル,インダストリアル・メタル,ジャーマン・メタルなどの呼称が林立する。
林 浩平 (2013). ブリティッシュ・ロック:思想・魂・哲学 講談社 pp.57-58
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