まずジミー・ペイジが,鑽仰するあまりにそのひとがかつて住んだことがある館を購入した,というエピソードも残るのが,アレイスター・クロウリー(1875〜1947)である。クロウリーはイギリス人の神秘主義者だが,魔術師を自称しドラッグやセックスをとりいれた秘密儀式を行ったりするなど,その人物像にはややいかがわしいところがある。そのために現在ではコミックやアニメ,ゲームなどの世界で人気のあるキャラクターともなっている。またクロウリーには,ヨーロッパの儀式魔術の古典的文献とされる代表作の『法の書』をはじめ『神秘主義と魔術』など何冊かの著作があって,日本語にも訳され図書刊行会から出版されている。ただし『法の書』は,たとえば「わが預言者に従うがよい!私を知るという試練を最後までくぐり抜けんことを!われのみを探求せよ!されば私の愛が授ける歓びが,汝らをあらゆる苦痛から救い出してくれよう」とか,「私に向かって狂気を呼ぶ愛の唄を歌いかけてくれ!私に向けて香料を燃やしてくれ!私のために宝石で身を飾ってくれ!私に乾杯するがよい」とかいった激越な調子のマニフェストとも言えるが,そこには体系だった教義や宗教思想が述べられているわけではない。
林 浩平 (2013). ブリティッシュ・ロック:思想・魂・哲学 講談社 pp.97-98
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