このグラム・ロックの美学というものを改めて考察するに,それはブリティッシュ・ロック,というかロック・ミュージックそのもののエッセンスを体現したものではないだろうか。ロック自体がそもそも官能性を刺激する音楽である。ロックビートであるエイトビートは,身体の芯そうに働きかけ,官能の世界へと聴くものを向かわせる。またロックサウンドがもたらす陶酔感や崇高感は,いわばナルシシズムを刺激し,さらに日常意識からの超出を企図して異相へと導いてゆく。つまり派手な化粧を施すことをためらわせないのである。ロック界きっての知性のひとりであるブライアン・イーノが,ロキシー・ミュージック時代には強烈な化粧をしていたのが象徴的である。70年代になってグラム・ロックが登場したのは,ロックの展開過程の必然だったと言えるのではないだろうか。
林 浩平 (2013). ブリティッシュ・ロック:思想・魂・哲学 講談社 pp.196-197
PR