第二工学部の蔑称が「戦犯学部」であることはすでに述べた。しかし第二工学部を「戦犯学部」と呼ぶならば,東大の第一工学部をはじめ戦争に協力した大学の学部すべてを「戦犯学部」と呼ばなければならない。
そもそも,殺人兵器を率先して作れば「戦犯」の汚名を着せられてもしかたがない。しかし,それが人を守るための道具だったとしたら———。
この問題が微妙で難しいのは,道具にはローマ神ヤヌスのような二面性があるからだ。たとえば,包丁は食材を切る道具だが,人を殺める道具にもなり得る。ノーベル賞を非難する人はいないだろう。しかし,アルフレッド・ノーベルが発明したダイナマイトは人類の発展に貢献する反面,多くの人命を奪ってきた。
また,インターネット通販サイトのアマゾンは現在,「ドローン」を使った宅配事業を施行している。しかし,ドローンを利用して,爆弾をピンポイントで敵の施設に投下することができるかもしれない。
このように二面性をもつ道具をいずれの面で利用するかは,それを利用する人間の倫理にかかわっている。この問題は,研究者や大学人である以前に,ひとりの人間として問われる。
中野 明 (2015). 東京大学第二工学部:なぜ,9年間で消えたのか 祥伝社 pp.199-200
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