これはどういうわけだろう。まずは,基本的なことを押さえておこう。大半の人は,自分の求めているものが何かわからずにいて,状況とからめて見たときにはじめてそれがなんなのかを知る。たとえば,自分がどんな競技用自転車を欲しいのか,ツール・ド・フランスの優勝者があるモデルに乗ってギアを切りかえている姿を見てはじめてわかる。自分がどんなスピーカーを欲しいのか,いまもっているものより音のいいスピーカーを聞いてはじめてわかる。自分がどんな生き方をしたいのかさえ,親戚なり友人なりの生き方がまさに自分のとるべき道だと思えてはじめてわかる。すべてが相対的,そこが肝心だ。わたしたちは,暗闇のなかで飛行機を着陸させるパイロットと同じで,車輪を接地できる場所まで誘導してくれる滑走路の両側の明かりが必要なのだ。
ダン・アリエリー 熊谷淳子(訳) (2008). 予想どおりに不合理:行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 Pp.25-26.
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