実際に無料!が行動にどう影響するかを示す話を紹介しよう。数年前,アマゾン(amazon.com)は一定額以上の注文をすると無料配送になるサービスをはじめた。たとえば,16ドル95セントの本を1冊買うと,3ドル95セントの配送料がかかる。ところが,もう1冊本を買って31ドル90セントだと,配送料が無料!になる。
人によっては(わたし自身の経験談でもあるのだが),2冊めはべつに欲しい本ではないのに,無料!配送があまりに魅力的で,これを得たいがために追加の本の代金を払うのをいとわない。アマゾン側はこのサービスをはじめたことにとても満足したが,ただ1か所,フランスだけは売り上げがまったく伸びなかった。フランスの消費者は,ほかの国の人たちより合理的なのだろうか?それはない。そうではなく,フランスの消費者はよそとはちがう取り決めに反応していたことがわかった。
こういうことだ。フランス支社は,一定額以上の注文で配送料を無料!にするのではなく,1フランにしたのだ。たった1フラン----20円程度だ。無料!と大してちがわないように思えるが,これが大ちがいだった。現に,アマゾンがフランスの販売促進に無料配送を加えたところ,ほかの国と同じように売り上げが劇的に伸びた。つまり,配送料1フラン----破格の値段だ----はフランス人にほとんど無視されたが,無料!配送は熱狂的な反響を呼んだわけだ。
ダン・アリエリー 熊谷淳子(訳) (2008). 予想どおりに不合理:行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 Pp.95-96.
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