オキシトシンは「愛情のホルモン」として知られている。このホルモンは,たとえば母親が幼児に授乳すると分泌される。また,オルガスムによっても分泌される。この化学物質は,脳内で分泌されてからわずか数分で分解されるが,深く,永続的な絆の感覚を生じさせる。ハグをするだけでも,微量のオキシトシンが分泌される。だが最新の科学によって,このハグ・ホルモンが,競争においても重要な役割を担っていることが明らかになり始めている。
オキシトシンは,敵を見分けたり,視線から相手の意図を読み取ったりするのに役立つのだ。
それまでオキシトシンは,他者を信頼しやすくなる効果があると考えられていた。だが,その効果を期待して,境界性パーソナリティ障害の患者にオキシトシンを与えたところ,意外にも逆の効果が観察された。オキシトシンは,患者をさらに疑い深くしていたのだ。オキシトシンは,授乳する母親と乳児の絆を強めるのに役立つ。しかし同時にこのホルモンによって,母親は子供を守る母親熊のようになる。母乳で子供を育てる母親は,哺乳瓶で乳児を育てる女性より,2倍も攻撃的であることがわかっている。
ポー・ブロンソン7アシュリー・メリーマン 小島 修(訳) (2014). 競争の科学:賢く戦い,結果を出す 実務教育出版 pp.266
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