このように法人化後,国立大学の基盤となる予算の重心が,運営交付金から競争的資金に移っていったことが,文系の弱体化と非常に関係があります。つまり,競争的資金の獲得には,文系よりも理系のほうが次の3つの面ではるかに適しているのです。
第1は,一般に理系の研究は文系よりも期待される成果を見せやすく,しかも比較的短期間で結果を出しやすいことです。理系の研究の多くは,「こういう計画でこれだけの成果を挙げます。この期間でこのレベルの目標を達成します」ということを明確に提示することが可能です。他方,文系の研究ではそうした明確な目標や成果の提示が困難な場合が多く,成果よりも学問的意義の主張に終始してしまうことが少なくありません。第2に,理系の研究予算は,多くの場合,文系よりもずっと大規模です。同じ件数の研究予算でも,理系と文系では大学における「経済効果」に大きな差が生じます。第3に,概して理系はチームワーク,文系は個人作業であり,競争的資金の獲得のようにチームワークが要求される作業では,理系の人たちのほうが文系よりも優秀さを発揮します。
吉見俊哉 (2016). 「文系学部廃止」の衝撃 集英社 pp.45
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