写真の撮影で,人を笑顔にさせたい場合に「チーズ」と言わせるのにならい,ミシガン大学の研究者は笑顔を作らせるときは被験者に「イー」と言ってもらい,嫌な顔をしてもらうときは「ユー」と言ってもらった。
ワシントン大学の心理学者は,左右の眉頭にゴルフティーを取り付け,2つのグループにそれぞれちがう表情をしてもらった。片方のグループには,ゴルフティー同士が触れ合うように両眉を寄せて不機嫌顔を作らせた。もう片方のグループには,眉頭のゴルフティーをたがいに引き離すようにして,穏やかな表情を作らせたのである。
同じ主旨の実験でおそらく一番有名なのが,首から下が麻痺した人に筆記を可能にする方法を開発するためという名目で,ドイツの研究者たちがおこなったものだろう。集められた被験者の半数は,鉛筆を横にして上下の歯のあいだでくわえるように頼まれ(表情は笑っているようになる),もう半数は鉛筆を上下の唇のあいだにはさむように頼まれた(表情は不満げになる)。
「イー」と言い続けた被験者,眉頭のゴルフティーを左右に引き離すようにした被験者,上下の歯で鉛筆をくわえた被験者は,それまでより気分が明るくなった。さまざまな実験が繰り返し何度もレアードの実験結果を裏書きし,ジェームズの理論の正しさを証明した。人の行動はたしかに感情に影響する。言い換えれば,アズイフの法則が暗示しているとおり,行動しだいで思うがままに感情を生み出すことも可能なのだ。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2013). その科学があなたを変える 文藝春秋 pp.31
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