1960年代以前,心理学の世界では友情や恋や愛情を,実験で解明することはタブーとみなされていた。人間心理をあまりに性欲と結びつけて解釈したがるフロイトの非科学的な姿勢と一線を画したかったためか,各地の大学は実験の中で被験者のプライバシーに立ち入ることを奨励しなかった。禁止領域に立ち入った場合は,実際に処罰もおこなわれた。「性欲をそそる目的で誰かの耳に息を吹き込んだことはありますか」と被験者に質問し,謹慎処分になった教授の例もある。
1960年代に入っても,科学の世界では人がたがいに好意をもったり愛しあったりする過程について,ごく初歩なことしか解明されていなかった。そしてブラックバックの謎が解き明かせない現実に直面して,心理学者は自分たちの知識不足をあらためて思い知った。それが1つのきっかけとなり,何人かの研究者が学問の未開の地に踏み込み,友情や恋愛の心理について調べはじめた。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2013). その科学があなたを変える 文藝春秋 pp.61
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