同じ原則が,マイナス行動へ人を駆り立てる原動力にもなる。たとえば1970年代のはじめに,ギリシアの軍事政権は新兵たちを残酷な拷問執行人に鍛え上げようと考えた。フット・イン・ザ・ドアのテクニックを使い,新兵を少しずつ囚人の虐待に加担させていったのだ。まず最初に,兵士たちは監房の外で囚人たちが虐待される場面を見せられた。つぎの段階では,監房の中に入って虐待の場面を眺めさせられた。そのつぎの段階では,監房の中で少しだけ虐待を手伝うように言われた。笞で打たれるあいだ囚人の体を抑えつけている,などだ。そして最後の段階では,自分の手で囚人を笞で打つように命じられた。そして虐待執行人となった彼らの姿を,新たに入隊した兵士の一団が監房の外で眺めた。フット・イン・ザ・ドアのテクニックが,ゆっくりとながらも着実に効果を発揮し,最初はまったく受け入れられなかった行動を,兵士がみずからおこなうようになったのだ。
リチャード・ワイズマン 木村博江(訳) (2013). その科学があなたを変える 文藝春秋 pp.188
PR