一度このことに気づけば,「心理的」な依存と「物理的」な依存(または病みつき行為)の従来の区別は誤解を招きやすいものだとわかるだろう。たとえば,摂食障害を持つ人が大量のアイスクリームを食べると,その行為が脳の変化によって強化されることがある(ついでに,そのあとそれを吐きもどせば,セロトニンのハイも経験できる)。このような人は,アイスクリームに物理的に病みつきになっている。しかし,この病みつき行為は,自分にそれを強いることをやめれば,完全に元に戻せるものだ。だから,どの面から見ても,病気と言うことはできない。
一方,依存という言葉は,さまざまなことを意味する。糖尿病患者の一部は,インスリンがなければ命を落とすという意味で,インスリンに依存している。ヘロイン依存者は,ヘロインがなければ命を落とすわけではないが,ヘロインというフィックスを得られなければ離脱症状に苦しむという意味で,ヘロインに依存している。1日にエスプレッソを6杯飲む人も,突然コーヒーをやめたら,離脱症状に苦しむ。おそらく,かなりひどい頭痛に見舞われることだろう。だとすれば,その人はカフェインに依存していると言えるのではないだろうか。
デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 103
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