カリフォルニア大学ロサンゼルス校セメル神経科学・ヒト行動学研究所所長の精神科医,ピーター・ワイブラウによると,今日の生物学と環境のミスマッチの悪影響をもっとも深刻にこうむるのは,食糧難の時代をうまく生き延びてきた過去を持つ民族だそうだ。アメリカ南西部の砂漠に移りすんだ人々は,ときおり手に入るウサギ,それに加えて昆虫,木の根,ベリー類,種子,木の実といったもので命をつながなければならなかった。最終的には,土地の感慨を学んで,カボチャ,トウモロコシ,豆類などを育てるようになったが,それでも飢餓の危機は常に存在した。そんな環境を考えると,彼らがこれまで生きのびてきたのは,偉業だと言ってもいいだろう。
しかし,多くの世代を経るあいだに,共同体が食糧難を乗りこえられるように環境に適応して遺伝子を変化させてきたのだとしたら,その食生活が突然変わったとき,その遺伝的形質は負の遺産になる。
あなたが脂質から得ているカロリー摂取の割合が,ほぼ一夜にして15パーセントから40パーセントに急増したとしたら,まず間違いなく,あなたはトラブルに見舞われる。とりわけ,それが,糖分摂取量の急増と,体を動かさない生活様式への変化とともに生じた場合には。
デイミアン・トンプソン 中里京子(訳) (2014). 依存症ビジネス:「廃人」製造社会の真実 ダイヤモンド社 pp. 169
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