では,それほどニューロンが多いのに,なぜ赤ん坊はモーツァルトやアインシュタインのような天才ではないのだろう。それは,ふんだんにニューロンを持っていても,その一部しかつながっていないからだ。したがって,脳に入ってきた情報は,ニューロンに取り込まれるものの,次にどこへ行けばいいかがわからない。不慣れな騒々しい都会の真ん中に放り出された人のように,赤ん坊の脳は,さまざまな可能性に囲まれていながら,その新しい世界を案内してくれる地図もコンパスも持ち合わせていないのだ。「生まれたばかりの赤ん坊は,麻薬によるトリップに似た,サイケデリックな幻覚を見ている」と,カナダ・モントリオールのマギル大学の神経科学者,ダニエル・レヴィンティンはその状態をわかりやすく説明する。
フランシス・ジェンセン エイミー・エリス・ナット 渡辺久子(訳) (2015). 10代の脳:反抗期と思春期の子どもにどう対処するか 文藝春秋 pp. 59
(Jensen, F. E. & Nutt, A. E. (2015). The teenage brain: A neuroscientist’s survival guide to raising adolescents and young adults. New York: Harper.)
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