よく知られる興奮性の神経伝達物質は,エピネフリン,ノルエピネフリン,グルタミン酸である。一方,抑制性の神経伝達物質は,ガンマアミノ酪酸(GABA)やセロトニンなどで,身体の興奮を鎮め,落ち着かせる。セロトニンが足りないと攻撃的になったり鬱病になったりする。ドーパミンは特殊な神経伝達物質で,興奮性にも抑制性にもなる。また,エピネフリンなどと同じく,ホルモンでもある。副腎ではホルモンとしてはたらき,脳では神経伝達物質としてはたらくのだ。ドーパミンは脳の「報酬回路」に不可欠で,人を興奮させたり,集中させたりする。「どうしてもこれが欲しい」という欲求を駆り立てるので,目標に向かう原動力となるが,場合によっては中毒を招く。脳内に放出されるドーパミンが増えると,報酬回路が活性化し,欲求がますます高まる。レストラン,カジノ,会議室,寝室,どこにいようと,この摂理は同じだ。高カロリーの食品は,大量のドーパミンを放出させる。なぜなら,カロリーが高いと生存の可能性を高めるので,報酬回路がそれを食べることを後押しするのだ。アイスクリームが食べたくてたまらない時や,ギャンブルやセックスをしたくてたまらない時,わたしたちが欲しているのは,甘味や金銭やオーガズムではない。ドーパミンを欲しているのだ。
フランシス・ジェンセン エイミー・エリス・ナット 渡辺久子(訳) (2015). 10代の脳:反抗期と思春期の子どもにどう対処するか 文藝春秋 pp. 64-65
(Jensen, F. E. & Nutt, A. E. (2015). The teenage brain: A neuroscientist’s survival guide to raising adolescents and young adults. New York: Harper.)
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