これらの研究から新たにわかった最も重要なことは,10代の脳は学習能力が非常に高いということだ。これを当たり前と思ってはいけない。10代の脳では,長期定着過程(LTP)がきわめて起こりやすい。動物の場合でも,成体より物事を覚えるのが速い。これはシナプスの可塑性が高いせいなのだろうか。それを知るために,研究者は,若いラットとおとなのラットの脳の切片でLTPの違いを見た。すると,若いラットの脳の方が,LTPが「はるかに多く起きている」ことがわかった。バースト刺激(一定のリズムの刺激。「練習」に相当する)の「前」と「後」を比べると,若いラットのシナプスの増加は,成体のそれを1.5倍上回り,しかも,増えたシナプスはより長く保たれたのだ。
つまり,10代で学んだことは,おとなになってから学ぶことより,記憶しやすく,しかもその記憶が長く持続する,ということだ。この事実を見過ごしてはならない!10代とは,得意なことを見出し,伸びる才能に投資する時期なのだ。同時に,学習や感情面の問題に対して,治療や支援の効果がきわめて高い時期でもある。
フランシス・ジェンセン エイミー・エリス・ナット 渡辺久子(訳) (2015). 10代の脳:反抗期と思春期の子どもにどう対処するか 文藝春秋 pp. 89-91
(Jensen, F. E. & Nutt, A. E. (2015). The teenage brain: A neuroscientist’s survival guide to raising adolescents and young adults. New York: Harper.)
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