科学者は,リスクに惹かれる傾向を「次善の選択」という言葉で説明しようとする。つまり,50パーセントの確率で得られる報酬(最善の選択)より,20パーセントの確率で得られる報酬(次善の選択)のほうが満足度が高いので,人はギャンブル性の高い報酬に惹かれやすいというのだ。そして,10代が「次善の選択」をしがちなのは,彼らの衝動性,不合理性,若さゆえの自己中心性,あるいは自分は傷つかないという根拠のない自信のせいだと,大半のおとなは考えている。アリストテレスでさえ,2000年以上昔の古代ギリシャの「いかれた」若者が,おとなとは違う考え方をし,行動をするのは「感情が高ぶりやすく,短気で,衝動に流されやすい」からだと書いている。彼はまた,若者は自らの情熱の奴隷となっており,それは「わずかにあった自制心も野望に押しつぶされ,傲慢であるがゆえに,怪我をするのではないかと想像することさえできないのだ」と記している。つまり,若者はあまりに自己陶酔的で,無分別で,自信満々なので,おとななら決してしないことをしても,自分は怪我をしないと考えがちだ,と言っているのだ。しかし,「自己陶酔」「無分別」「自信満々」というのは,あえて危険な行動に走るおとなのためのレッテルであり,それをそのままティーンに用いることはできない。
フランシス・ジェンセン エイミー・エリス・ナット 渡辺久子(訳) (2015). 10代の脳:反抗期と思春期の子どもにどう対処するか 文藝春秋 pp. 120-121
(Jensen, F. E. & Nutt, A. E. (2015). The teenage brain: A neuroscientist’s survival guide to raising adolescents and young adults. New York: Harper.)
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