ロンブローゾの理論には2つのポイントがある。犯罪の基盤には脳が関係するという点と,犯罪者は進化的な観点から見て,より原始的な種への退行だとする点だ。ロンブローゾの見るところでは,犯罪者は「先祖返り的な刻印」,すなわち大きなあご,傾斜した額,一本の手掌線など,人類進化の初期段階に由来する身体的特徴をもとに特定できた。これらの特徴をもとに,彼はユダヤ人や北部イタリア人を頂点に,また,(ビレラが属する)南部イタリア人,ボリビア人,ペルー人を底辺に置く進化的な序列を措定した。おそらくその見方には,農業中心の貧しい南部イタリアでは犯罪発生率が北部よりはるかに高かったという当時の事情も関係しているのだろう。それは,統一されたばかりのイタリアを悩ます「南部問題」の数ある徴候のうちの1つだった。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.29
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