今日の私たちは,攻撃性を不適応で常軌を逸したものと考えている。暴力犯罪者には,彼らや他の人々が犯罪を繰り返すのを阻止するために重い懲罰が課せられる。したがって犯罪が適応的であるとは,とても言えない。だが,進化心理学者の主張は異なる。攻撃性は,他人から資源をもぎ取るために用いられ,資源は進化というゲームの核をなし,生きるため,子孫を残すため,子どもを養育するために必要なものだ。キャンディを巻き上げるために他の子どもを脅すいじめっ子のいびりから銀行強盗に至るまで,悪行には進化的な起源が存在する。また,防御のために行使される攻撃性は,自分の資源を奪おうとする他人の意図をくじくために重要だ。酒場でのけんかは力と支配の序列の確立に役立ち,目をつけている女性やライバルたちの面前で己の強さを誇示できる。男性にとっての求愛のゲームとは,社会のなかで高い地位を手に入れることでもある。「あいつは攻撃的でけんかっ早い」という評判をとることは,社会的なグループのなかで自己の地位を向上させ,より多くの資源の獲得を可能にするばかりか,他人の攻撃を阻止するのにも役立つ。そしてこれは,遊園地で遊ぶ子どもにも,囚人にも同様に当てはまる。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.33
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