これはどういうことか?結論を言えば,「欺く」という反社会的な行為は,前頭葉の処理能力をフルに活かさねばならない複雑な実行機能を必要とする。実際,真実を語るのは非常に簡単で,ホラを吹くのはそれよりはるかにむずかしい。実行機能に強く依存し,それだけ脳の活動を要する。また,欺瞞は「心の理論」を必要とする。たとえば,1月27日水曜日の午後8時にどこにいたのかについて嘘をつくとき,私は,あなたが私について何を知っているのか,あるいは知らないのかを把握していなければならない。「その日はほんとうに,家族に自分の誕生日を祝ってもらってたんだっけ?」などと思案をめぐらせる。あなたが何をもっともらしいと,あるいはありそうもないと考えるかを把握している必要がある。この「読心」には,前頭前皮質と,側頭葉や頭頂葉の下位領域を結びつける,いくつかの脳領域を動員しなければならない。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.140-141
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