イギリスのヨーク大学の博士課程で最初の研究をしていたとき,私は,反社会的な学生が,安静時心拍数の低さによって特徴づけられることを発見した。ノッティンガム大学へ移ってからも同じ結果が得られた。これらの結果はたまたま得られたのか?この問いに答えるために,南カリフォルニア大学に移籍してから,心拍数と反社会的行動の相関関係について同僚とメタ分析を行った。われわれは,このテーマに関して子どもや青少年を対象に実施された,見つかる限りのあらゆる研究を分析した。40の出版物が見つかり,被験者の子どもの総数は5868人に達した。こうしてできるだけ多くの研究を集めることで,より正確な実像を把握できる。
その結果,「反社会的な子どもは,安静時心拍数が実際に低い」ことがわかった。加えてわれわれは,ストレスを受けているあいだの(たとえば診断待ちをしているあいだの)心拍数も調査した。実験室で実施された調査では,1000から逆向きに7つ置きで数えるなど,心的に負担のかかる計算課題が子どもに与えられている。たいしたストレスではないと思われる向きは,ぜひ自分で試されたい。これらのストレスを付加した実験では,差はさらに広がった。
われわれが行ったメタ分析では,安静時心拍数は,反社会的な行動に関する被験者間の差異のおよそ5パーセントを説明した。この数値は低く感じるかもしれないが,医学的な文脈では強い相関関係の存在を示す。たとえば喫煙と肺がん発症の関係,心臓発作による死亡の危険性を緩和するアスピリンの効果,抗高血圧薬と卒中などの発作の低減の関係よりもはるかに強い。これらはいずれも医学界では重要かつ強力な関係だが,心拍数と反社会的行動の関係よりは弱い。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.162-163
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