攻撃性の緩和には,さまざまな薬物の有効性が認められている。もっとも効果的なのは新世代の抗精神病薬で,効果量は0.90と大きい。メチルフェニデートなどの刺激薬もきわめて有効で,効果量は0.87である。気分安定薬は中位の0.40,抗うつ薬は低〜中位の0.30の効果量を持つ。青少年にも子どもと同じことが言える。青少年の攻撃性を対象とする薬物治療に関する2つのメタ分析に加え,子どもや青少年に対する薬物の効果を調査したその他の検証やメタ分析でも,類似の効果が報告されている。これらを総括すると,明らかに薬物治療は,ADHD,自閉症,双極性障害,精神遅滞,統合失調症などのさまざまな精神障害にともなう,子どもや青少年の攻撃性を緩和する。
では,攻撃性や暴力的な行動に対する薬物治療は,それ以外の介入方法と比べてどれほど効果的なのか?ペンシルベニア大学の同僚ティム・ベックは,多岐にわたる臨床障害に有効な,独自の認知行動療法を開発した。この療法は,攻撃性に対する介入手段としてはもっとも効果的なもので,広く採用されている。効果量は控えめに見積もって0.30である。つまり全体の効果量という点で言えば,薬物治療は,もっとも有効な心理・社会的介入方法に匹敵する。というより,新世代の抗精神病薬や刺激薬は,効果量において,最良の非薬物的介入方法を凌駕する。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.433-434
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