2004年5月に,朝日新聞の視点欄に「研究評価/誤った指標の活用を改めよう」ということで,インパクトファクターについて発表するチャンスがあった。そこでは,研究評価にインパクトファクターを利用することを強く批判する内容の提言をした。この記事がきっかけかどうか確証はないが,文部科学省内でインパクトファクターを誤用した研究評価のしかたを誰が提唱したのか,問いただす動きがあったという。これを聞いて「マッチポンプ」という言葉が,脳裏に浮かんだ。研究評価指標としてインパクトファクターの誤った使用を提言した側の人間が,そのことを忘れ犯人探しをしている姿だ。政策的に助成資金が増大し,研究費の比重が競争的資金へとシフトするなかで,きちんとした定性的な評価に時間をかける体制をつくれないまま,安易な定量的指標の使用を助長したのは助成側ではなかったのか。また,7章で触れたように学会を代表する研究者が,自分たちの発行する雑誌を意図的に引用し,自誌のインパクトファクターを高めるよう公式ページや学会で述べていた事例もあり,誤用例は限りないのが現状である。
インパクトファクターの計算式を知っている人は,多くても10名に1人であろう。インパクトファクターが,雑誌を評価するための指標として生まれた経緯や,創案者のガーフィールド博士が研究者の業績評価に使うことを強く否定していることも知られていない。インパクトファクターについて講演会などで話してみると,研究者は最初からインパクトファクターを個人業績評価指標として認識している人ばかりであった。科学コミュニティ全体で,インパクトファクターの正確な理解が欠けているだけでなく,一部の指導者や政府機関が誤用や不正を奨励してきたのではないだろうか。有用な指標であるが,注意深い応用が求められる。
山崎茂明 (2007). パブリッシュ・オア・ペリッシュ:科学者の発表倫理 みすず書房 Pp.157-158
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