一般に,臨床障害の有無の判定には,少なくとも9つの基準がある。それには,統計的な頻度の低さ,社会規範からの逸脱,理想的な心の健康状態からの逸脱などが含まれる。犯罪をこの基準に照らすと,「常習的な犯罪は比較的少ない」「犯罪は社会規範からの逸脱そのものである」「犯罪者の心の健康状態は理想的であるとはとても言えない」。それに加えて,自己や他者に与える苦痛や苦悩,あるいは社会,職業,行動,学習,認知における障害,さらにはこれまでに見てきた脳などの器官の数々の機能不全を考慮に入れれば,暴力犯罪を臨床障害と見なせることは明らかだ。もちろん,個々の基準をそれだけで取り上げれば,そのほとんどには相応の弱点があるが,それらを組み合わせれば,暴力犯罪の精神病理学的全体像を描くのに大いに役立つ。常習的な犯罪はこれらの基準を満たし,実際のところDSMに収録されているほとんどの障害と同様に,もしくはいくつかの障害よりもうまく当てはまる。
エイドリアン・レイン 高橋 洋(訳) (2015). 暴力の解剖学:神経犯罪学への招待 紀伊國屋書店 pp.502-503
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