かつて知能検査及び知能指数を批判的に検討していた私は,知能検査と知能指数を同一視し,数字で人間を管理して人の自由を侵害するとんでもない道具だと思っていた。「知能とは知能検査で測定したものである」というようなフレーズを操作的定義だとして信じている心理学者たちはどうかしていると思っていた。そして,その一番のもとになった知能検査を作った人,アルフレッド・ビネは,相当にトンデモナイことを考え,トンデモナイことをやった人なのだと思っていたのである。
ところが,アルフレッド・ビネは,私が考えていたような検査手技,数値至上主義,測定主義者,操作的定義主義者ではなく,目の前の子どもを,自分の目で確かめて,その子の未来を展望するために何をすれば良いかを考える人物だった。日本で一体どれくらいの人が知能検査を用いているか知らないが,ビネの原典を読まずに用いることは厳しく禁止すべきであると,私は考えている。あるいは手前味噌,我田引水だが,拙著『IQを問う』を読んでから使うべきである。
サトウタツヤ (2015). 心理学の名著30 筑摩書房 pp.91
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