ナチスはアメリカの断種法や絶対移民制限法を,自らの政治主張の正しさを世界も認め採用した具体例として,さかんに喧伝した。ナチスの人種制作に確信犯的に賛同する人間もいた。1935年にベルリンで開かれた国際人口学会議は,当然ナチス色の強いものとなったが,アメリカ代表C.G.キャンベルは「人口学の生物学的状況」という講演でこう述べた。「ドイツ国総統アドルフ・ヒトラーが,内務大臣フリック博士の協力,ドイツの人類学者,優生学者,社会哲学者らの支援の下,人種の歴史の時代を画する人口増大と改良という包括的人種政策の構築ができたのも,ドイツ人全員の研究の総合とみてよい。もし,人種の質や民族的達成や生存への展望の面で落伍したくないのなら他の国家や民族が追随すべき,手本をもたらした」。当然,ナチスはこの発言を引用した。
米本昌平・松原洋子・橳島次郎・市野川容孝 (2000). 優生学と人間社会:生命科学の世紀はどこへ向かうのか 講談社 pp. 44
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