オランダには,アヘンやヘロインなどの麻薬を,不正に取引することを罰する法律はあるが,それは麻薬の供給を減少させることが目的であった。つまり,オランダの法律は,麻薬を使用してダメージを受けてしまった国民を処罰する目的で作られたものではないのだ。
このような考え方の背景には,現実的な手段を使用して,市民を社会の危険から守るために考え出された,「ハーム・リダクション」という概念の存在がある。現代の欧米では様々な場面で,このハーム・リダクションが導入されている。
ハーム・リダクションという概念は,日本人には少々理解しがたいかもしれない。
たとえば,未成年者へのエイズの蔓延を抑えるために,性交渉を抑圧するのではなく,積極的に性教育をおこない,場合によってはコンドームを配布することで危険を回避することなどが,ハーム・リダクションに該当する。
1本の注射器によるヘロインの回し打ちも,HIVその他の感染を引き起こすが,それを予防するために欧米では,繁華街やリハビリ施設などで,注射針を配布することがおこなわれている。これらの行動は,一見矛盾したことのように見られがちだが,現実的な問題解決のためには,大変有効な手段なのである。
一方,日本では,薬物使用から派生する問題に対してのハーム・リダクション的対策が,完全に遅れている。
長吉秀夫 (2009). 大麻入門 幻冬舎 Pp.76-77
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