しかし,選択的中絶が個別に行われた結果,出生前診断が可能な特定の病気や障害をもつ子どもの出生が激減する現象が,実際に起こっている。そのために,こうした病気や障害をもって生まれてきた子どもたちは,「中絶を失敗した子ども」,「中絶を怠ったために生まれた子ども」という否定的なまなざしにさらされるとともに,専門医の減少などによって社会的支援が受けにくくなる恐れがある。イギリスの二分脊椎症患者のケースがこれにあたる。また,生殖細胞系列の遺伝子操作を容認すれば,病気の治療にとどまらず,親にとって望ましい性質を増進するように遺伝子を操作する可能性も出てくる。このように,自己決定の結果の集積が優生学的効果をもたらしうることを,われわれは認識しておかなくてはならない。
米本昌平・松原洋子・橳島次郎・市野川容孝 (2000). 優生学と人間社会:生命科学の世紀はどこへ向かうのか 講談社 pp. 235
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